ちょっと古いのですが、先日1970年に公開された 『Ned Kelly』の映画を観ました。
この映画は、イギリスのトニー・リチャードソン監督が、オーストラリアの作家兼テレビドラマプロデューサーでネッド・ケリーに詳しいイアン・ジョーンズ (1931 – 2018) と共同で脚本を書いたイギリス映画で、19世紀に実在したネッド・ケリーをローリングストーンズのボーカル、ミック・ジャガーが演じています。
(出典: https://en.m.wikipedia.org)
邦題は『太陽の果てに青春を』だそうで、なんだか時代を感じるネーミングですね〜。
日本では西部劇というジャンルになっているようですが、オーストラリアのビクトリア州が舞台だから「南部劇」ですよね?(笑) まあ、確かに19世紀後半が舞台ですし雰囲気は西部劇かもしれません。
…でも実はこの映画、評価は微妙で「ローリングストーンズのファン以外は見ない方が良い」とか「よく分からなかった」とかいう感想が多いようなんです。
金がもったいないから買うな!借りるな!
と、うちのパートナーも酷評していたので、私はこれを聞いて「いつか絶対観よう!」とずっと思ってたんですよね(笑) 今回やっと念願叶いました。
当時人気絶頂だったミック・ジャガーは、ステージの上のようにブッシュの中でも個性を発揮して若い視聴者を惹きつける事を期待されたようですが、残念ながら権力や差別に反抗しブッシュに生きた無法者役にはハマらなかったようです。
しかも、映画制作過程で色々あったようで、キャスティングや撮影現場についてネッド・ケリーの子孫の人たちから強い抗議の声が上がったり、妹マギーを演じる予定だったミック・ジャガーの恋人マリアンヌ・フェイスフル (Marianne Faithfull) が別れ話から大量の睡眠薬を飲み、シドニーの病院に運ばれる騒動になって降板になったり…。
撮影中もミック・ジャガーがピストルの向かい火で負傷したり、出演者が病気になったり、衣装が焼失したり、馬車が倒れて間一髪でジョー役のマーク・マクマナスが大怪我から免れたりとトラブルが多かったようです。え、呪われてる…?
リチャードソン監督自身、作品の出来栄えに満足いかなかったそうで、ミック・ジャガーも1980年に「この映画を一度も観た事はない」と発言。そんなあ…。
タイトル | Ned Kelly (太陽の果てに青春を) |
監督 | Tony Richardson 🇬🇧 |
脚本 | Tony Richardson Ian Jones 🇦🇺 |
公開 | 1970年 |
上映時間 | 103分 |
出演:
Ned Kelly 役:
ミック・ジャガー (Mick Jagger) 🇬🇧
Mrs. Kelly 役:
クラリッサ・ケイ (Clarissa Kaye) 🇦🇺
Maggie 役:
ダイアン・クレイグ (Diane Craig) 🇦🇺
Dan_Kelly 役:
アレン・ビックフォード (Allen Bickford)
Joe Byrne 役:
マーク・マクマナス (Mark McManus) 🇬🇧
Steve Hart 役:
ジョフ・ギルモア (Geoff Gilmour) 🇦🇺
George King 役:
ブルース・ バリー (Bruce Barry) 🇦🇺
私の総合的感想:
19世紀のオーストラリアの世界観が味わえて、それなりに楽しめました。
まあ、確かにネッド ・ケリーを知らなくていきなり観るといまいちストーリーに入りにくそうだし、ミック・ジャガーがネッド ・ケリー役になり切れてない感はあるけど、それも味では?
⚠️ ここから先はネタバレあります。 でも歴史上の実在人物なので、先にあらすじを知ってた方が楽しめるかも。
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あらすじ
冒頭からネッド・ケリーが処刑される最後の日のシーンで始まりますが、それから暗いシーンが一変。画面は明るくなり、陽気なカントリー調の歌と共にオーストラリアのブッシュを歩くネッド・ケリーの姿が現れます。
物語はネッドが3年の刑期を終えて家に戻ってくる所からスタート。
もと囚人でアイルランド移民の父を持つネッド一家は、常に警察から目を付けられ不平等な扱いを受けていたのですが、ある日、ネッドの不在中にフリッツパトリックという警官が無理矢理家に上がり込み、弟のダンを逮捕すると言って家族と揉み合いになりました。
その時にフリッツパトリックは手を負傷し、警察にネッドに撃たれたと報告した為、ネッドは追われる身となります。
ダンと仲間2人でブッシュに身を隠すネッドですが、追って来た警官と撃ち合いになり、ますます罪は重く悪化していく一方でした。
それでもネッドたちは、不当に逮捕された母親や差別を受けているアイルランド移民たちの為にも戦いました。
しかし計画は失敗に終わり、死刑判決を出されてしまいます。
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感想
いきなり『The End』という文字で始まり、色のない重々しい雰囲気は恐ろさも感じますが、それは最初だけでした。全体を通して陽気なカントリー調の歌がバックに流れています。
最初の暗さから、のどかなブッシュの明るい雰囲気に切り替わったギャップが良い感じでしたが、正直ちょっとバックに流れる歌が多過ぎたような気がします。
流れる歌の歌詞でネッドたちの状況や心情を伝えようとしているフシがあり、ネッド・ケリー自身からの感情は読み取りにくいので、予備知識もなくいきなり観たら「何これ?」となっても仕方ないのかなと思いました。
歴史に忠実に作られ主観的な解釈が入ってない分、物語としての面白さよりも淡々と流れていく印象になってしまったのかなあ、とか。
暗い内容なのにいつも明るい歌が流れているのは、オーストラリア人独特の皮肉でしょうか?暗い歌詞と明るい曲調と言えば、長い間オーストラリア人に支持されている ワルチングマチルダ を彷彿させられます。
とはいえ、私は19世紀の雰囲気やストーリーに重点を置いて観ていたせいか、想像してたよりは全然良かったと思いました。最初の方でネッドが刑期を終えて家族と抱き合って喜ぶシーンで早々にウルっと来てましたしね。(ウルっとしたのはそのシーンだけですが。)
公開当時は特にほとんどの人がミック・ジャガーに注目して観てたと思うので、期待を裏切られてガッカリという気持ちが大きかったのかもしれませんが、私の場合は事前に評価を散々聞かされていたので客観的に鑑賞を楽しめたのかもしれません。
それにしても、ネッド ・ケリーは確かにオーストラリアのヒーロー的存在ではありますが、貧しくて日常的に差別を受けていて、最後はメタメタにやられてしまう基本的に泥にまみれな役柄なんですけど、そんな役を世界的大スターに演じさせちゃって良かったんでしょうか?華やかなステージ上の彼を考えれば「なんかゴメン…」という謎の罪悪感を感じてしまいました。
あと、緑のスカーフを首や帽子に付けて、アイルランド人の結束を固めるシーンは印象的でしたが、いつも付けてるのはちょっとわざとらしいような…。観てる人が一目でネッドの仲間だと分かるようにしたのかもしれませんけどね。
でも、70年代独特の映像のせいなのか、オーストラリアの世界がリアルに感じられて「過去に本当にこういう事が起こってそう!」と思いながら観る事が出来ました。実際、この映画の影や薄暗い光などが物悲しい雰囲気をよく表現していると賞賛されたみたいですよ。ミック・ジャガーの評価の陰に隠れてしまって、もったいない事です。
ただ、雨が降るシーンで晴れた空が映っていたのと、雨の降り方にムラがあったのは多少気になりましたが。
あと、個人的には登場人物がそこら辺にいそうな感じの人が多かったのもリアリティがあって良かったです。
2003年に公開されたヒース・レジャー主演の『Ned Kelly (邦題 ケリー・ザ・ギャング)』 の方は、観る人の感情に訴えかけて来るよく出来た映画だと思いますが、何しろ美男美女が多くて心のどこかで「こんなハンサムだらけな訳ないだろー」と思っちゃったんですよね。
とにかく、私は充分に楽しめたので観て良かったです!
おわりに
この映画、へんな中毒性があるのかもしれないですよ?つい2〜3度繰り返し観てしまったし、カントリー調の歌が耳から離れません(笑)ミック・ジャガーの独特なしゃべり方も観てるうちに癖になるような…。
それと今回の映画を観て、ネッドの最後の言葉「Such is life」のセリフは、誰が演じても難しそうだなあと思いました。本人は一体どんな表情でこの言葉を言ったのでしょうか。考えさせられました。
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