「チャレンジすることに抵抗がないんです」と微笑むのは、2024年1月末にワーキングホリデーでシドニーに来た、アーティスト兼イラストレーターのMAHO TSUKIYAMAさん。
彼女はレストランなど複数の仕事を掛け持ちする傍らで、2週間で消えるジャグアタトゥーの仕事をする忙しい毎日を送っています。
タトゥーをしている人は珍しくはない反面、ジャグアタトゥーの知名度はほとんどないオーストラリアで、彼女はどんな風に仕事をして来たのでしょうか。詳しくお話を聞きました。
これからワーキングホリデーでオーストラリアに来る人に向けてのメッセージも聞いたので、少し長いですが最後まで読んでみてください。
ジャグアタトゥーアーティスト MAHOさん
日本で色んなことがあり、人生を立て直すつもりでオーストラリアに来たというMAHOさんは、名古屋でもジャグアタトゥーの仕事経験があり、アイコンやロゴなどのデザインを手掛けるイラストレーターでもあります。
最初は生活するだけで精一杯のカツカツな状態からスタートしたシドニー生活でしたが、それから1年が経とうとしている現在は、目標の貯金額を達成間近だそうです。
帰国が近づいてきた今も忙しく働いていますが、ウルルやハンターバレーなど旅行もそれなりに行ってやりたいことは大体やったので、心残りはないとのこと。
「もちろん体力的にきついこともありましたが、日本に比べて時給が高いので、忙しくてもそれだけの価値があったと思います」
そんなMAHOさんが情熱を傾けるのが、ジャグアタトゥーの仕事です。
インスタグラムやフェイスブックで集客し、タトゥースタジオのスペースを借りたり、月1で開催されるマーケットに出店したりして、ジャグアタトゥーを提供してきました。
ジャグアタトゥーの仕事をシドニーで
日本ではタトゥーブームの波に乗って「ジャグアタトゥー (Jagua Tatoo)」もじわじわと知られるようになってきているようですが、初めて聞いたという人も多いのではないでしょうか。
ジャグアタトゥーは普通のタトゥーとは違って、果物由来のインクを肌に乗せて角質層を染めるタトゥーです。だから痛みはなく、肌の代謝により約2週間ほどで消えます。
ヘナタトゥーにも少し似ていますが、茶色く発色するヘナと違い、ジャグアタトゥーは本当のタトゥーのような濃紺に発色し、タトゥーシールのように擦ったら消えるということもありません。
こういう期間限定で楽しめるテンポラリータトゥーは、消えない本当のタトゥーは入れたくない人や、痛みが苦手な人、色んなデザインを楽しみたい人などに喜ばれそうですよね。
実際、日本人のお客さんでは、帰国前や旅行前に入れたい人や、本当のタトゥーを入れる前に試したい人などに需要があったそうです。
ですが、オーストラリアでタトゥーに興味がある人は、普通に本物のタトゥーを入れる人が大半なので、現地のお客さんを獲得するのは難しかったところもあります。
マーケットでの現地の人の反応
マーケットでは価格を安めに設定
MAHOさんは、毎月第3土曜日に Manly Village Public School で行われるマーケットで、ジャグアタトゥーのお店を出してきました。
そこでジャグアタトゥーに興味を持ってくれる人は、大人よりもタトゥーをまだ入れられない子供や10代の若い人、特に学校という場所柄もあり8歳〜12歳くらいの子供が多かったとのことです。
そんな中、お年を召したおばあさんがお客さんになったこともありました。
メルボルンから来たおばあさんは「タトゥーの彫り師をやっている友達に会うから、フェイクタトゥーを入れてびっくりさせるわ」と、とてもお茶目な人だったみたいです。
ただ、「このタトゥーは一度消えてから発色する」という説明が英語でうまく伝わらなかったようで、完成した後、数時間そのままにしておかないといけない保護シールをすぐに剥がして「消えちゃうんだけど?」と言いに来たというエピソードも。
そんな風にオーストラリアではタトゥーには寛容ですが、やはり抵抗がある人も存在します。
「痛いし、デザインが本当に気に入る分からないのでタトゥーを諦めていた」というお客さんが来たこともありました。
身内の人が書いたサインのようなものをタトゥーとしてずっと入れたかったそうですが、ジャグアタトゥーでさえ「本当に消えるの?」と心配していたそう。
MAHOさんは「マーケットの仕事は経験として、たとえ赤字になっても楽しもう!」と決めていましたが、ジャグアタトゥーの知名度はなくても、誰かが描いてもらっているのを見て人集まってくることもよくあり、今のところ赤字になったことはないそうです。
そんな行動力の塊のようなMAHOさんですが、初めからひとりでマーケットに出店していたわけではありません。
「友人から日本人がマーケットに出店しているっぽいという話を聞いて、そこへ会いに行ったんです。そうして、その方と一緒に出店してもらえることになりました。最初から自分ひとりで出店するのは不安だったので、とても助かりました。
最初の数ヶ月はその方が借りているスペースの一部をお借りして、最終的に自分のお店を出した感じです。その日本人の方はブランディングがとても上手で、ディスプレイの仕方を教えてもらったり、小物を貸してくれたり、とてもお世話になりました」
そう語る彼女の話を聞いて、私 (筆者) は、慣れない異国の土地ですぐにマーケットの仕事が出来たのは行動力の賜物であり、「手伝ってあげたい」と思わせられる人柄で周りの協力を得られるのも、彼女の実力のひとつなのだろうと感じました。
ということで、百聞は一見にしかず。
私も、実際にMAHOさんのジャグアタトゥーを体験して来ました!
ジャグアタトゥーを体験!
MAHOさんがスペースを借りているチッペンデールのタトゥーショップ『Spider and Fly Tattoo』は、ビルの一角にあるインターフォンを鳴らして開けてもらうタイプの店舗です。
タトゥーショップに来たのは、15年くらい前にケアンズでピアスを開けてもらった時以来なので、ドキドキ。
オーナーさんが日本好きらしく、店内の壁には日本に由来するものがたくさん飾られていました。こんなおしゃれな空間で、ジャグアタトゥーの初体験です!
どんな絵にするか見本も見せてくれましたが、何でもOKというので、今回はこのブログのマスコットキャラクター、私のパートナーの似顔絵を描いてもらうことにしました (笑)
細く尖ったペン先が出て来たのでちょっとドキッとしますが、もちろん刺すわけではなくインクを乗せるだけなので、痛くありません。
丁寧に、でもスラスラと絵が出来上がっていきます。
絵が完成したらドライヤーで乾かし、保護テープを貼って終了です!
3〜6時間このままにして、洗い流したら、数日かけて少しずつ発色していくそう。3日目がいちばん濃いそうです。
ああ、やっぱりウキウキ気分が上がりますね!いずれ消えるので半分ウケ狙いもありましたが、かなり気に入りました。
それと、私の姪っ子にプレゼントしようと思っていたタトゥーシールも購入。こちらもMAHOさんが日本から持って来たもので、ジャグアタトゥーのように数日キープ出来るそう。
普通のタトゥーシールまでおまけしてくれて、感謝です!
最後に、もう少し深掘ってMAHOさんに質問をいくつかしてみました。
これからオーストラリアに来る人に向けてMAHOさんに質問
ー シドニーで生活してみて、どうでしたか?
シドニーは過ごしやすくて、とても気に入りました。
複数の仕事をしましたが、仕事探しはそんなに難しくなかったです。職場の人たちにもとてもお世話になり、良い環境で過ごすことが出来ました。
ー ジャグアタトゥーをはじめたきっかけを教えてください。
もともと絵を描く仕事がしたくて、でも絵を売って生計を立てるのは難しいことなので、何かすでに市場があってお客さんがお店に絵を買いに来るような商売はないかと探していたら、ジャグアタトゥーと出会いました。
それは自分に向いているピッタリな仕事だったと思います。
ー ジャグアタトゥーの仕事をするにあたって、日本とオーストラリアの違いはありましたか?
日本ではお店の下で働いていましたが、オーストラリアでは一から自分で開拓しないといけないというところは違いました。でも、やりやすさという点では、日本もオーストラリアもあまり変わらない気がします。
現地のお客さんを得るのに苦戦したこともありますが、意外とひとりでやってもお客さんが来るものなんだなあという感想です。
誰かと一緒に仕事をすると「お金を稼げないと迷惑がかかるのでは」など色々プレッシャーもありますが、オーストラリアではひとりで活動していた分、自分でやったことは自分の責任。たとえマイナスになっても、それは自分の出した結果だからと思える気楽さが良かったです。
行動することは苦にはならないですし、失敗してもしなくても、まずは経験したということで満足でした。
ー 今後の目標はありますか?
この仕事をする前に目標としていた「絵で生計を立てること」はほぼクリアしたので、今後はそれをもう少し安定させていけたらと思っています。
帰国後は前に働いていた名古屋のお店の社員になることが決まったので、今までは人から教わる立場でしたが、今度は自分が誰かを支える側になり、自分と同じように絵の仕事がやりたいけどどうやって生活していけば良いか分からないという人の力になりたいです。
これはお店のオーナーともよく話していたことなのですが、絵の世界は描くという才能と技術があるにも関わらず、低賃金で働くことは当たり前、不安定なのは仕方がないという風潮があります。だから、自分の持っている才能で好きなことをして仕事として食べていけるような仕組みを私たちが作っていくことで、その概念を変えていきたいんです。
その現実化に向けて、会社を大きくするよう頑張ります。
ー これからワーキングホリデーでオーストラリアに来る人に向けて、メッセージなどがあればお願いします。
もしアートや物作りなど何かやってみたいことがあるなら、まずオーストラリアで始めてみるのも良いかもしれません。この国にはわりと始めやすい環境が揃っているので、日本でビジネスをする予行練習にもなりますし、良い経験にもなると思います。
例えば日本で自分のサービスを発信しても、同じようなことをしている人がたくさんいるので埋もれがちです。その点オーストラリアでは、フェイスブックで告知をすると日本でやるより断然人の目につきやすく、インスタグラムもワーホリのタグ付けをするだけで多くの人に見てもらえます。
それに、こちらに来ている日本人は色んなことをやってみたい好奇心旺盛な人も多いので、経験値も上がりました。
仕事をするにしても時給が高いので、頑張って働けば余裕も出来ますし、住むところと生活さえ調整できれば、チャンスも作りやすいです。だから挑戦したいことがある人は、ぜひ挑戦してください。
最近MAHOさんは、お世話になっているレストランの窓にクリスマスの絵を描き、ウインドウアートを施したそうです。すると、それを見た常連さんから「自分のところでもお願いしたい」と声が掛かったそう。
絵が描けるということは、色んな可能性に満ちています。それに刺さる人がいないとお金にはなりませんが、だからこそ、やり方次第でさまざまなチャンスを秘めていそうです。
MAHOさんがシドニーにいるのは12月いっぱいまでなので、マーケットの出店もあと1回を残すところになりました。
シドニーでジャクアタトゥーを気軽に出来なくなってしまうのは寂しいですが、日本での活躍は楽しみです。ジャグアタトゥーのレッスンも予定しているそうですよ。
気になる人はインスタグラムをチェックしてみてください!
MAHO TSKIYAMAさんのインスタグラム
ジャグアタトゥーアカウント https://www.instagram.com/otsuki2525/
イラストアカウント https://www.instagram.com/tsukiyama_art/