今回紹介したいのは、『メイ・ギブスのナットコート (May Gibbs’ Nutcote)です。
20世紀のオーストラリアで活躍した女性児童文学作家兼イラストレーターのメイ・ギブス の生み出した魅力的なキャラクターは、今日のオーストラリアでもとても人気があります。
そして、彼女が住んでいた家がシドニー郊外のニュートラルベイに残っていて、一般公開されているのは意外と知られていません。
ここに来ると、メイ・ギズスのキャラクターで育ったオーストラリアの人はノスタルジックな気分になるようですが、あまり知らない人にとっても楽しめる場所ではないでしょうか。
日本語のガイドツアーもあるので、そちらを利用するのもおすすめです!
メイ・ギブスと作品について
May Gibbs, Australian children’s author and illustrator
メイ・ギブス (May Gibbs 1877-1969) は、オーストラリアを代表する児童文学者兼イラストレーターのひとりです。
1918年に発表された彼女の最も有名な著書で最初の長編物語『スナグルポットとカドルパイ (Snugglepot and Cuddlepie)』は、発売と同時に人気を博しました。
そして、その物語と他2作品を含む『スナグルポットとカドルパイのアドベンチャー完全版 (The Complete Adventures of Snugglepot & Cuddlepie)』は、現在でもオーストラリアで出版され続けています。
日本語訳も2002年に出版されていますが、現在は絶版です。
メイ・ギブスと作品については、別記事にもまと目ているので、読んでみてください。
彼女は4歳の時に両親に連れられてオーストラリアへ移住し、西オーストラリア州の自然を見て育ちました。その後、絵を学ぶために2度イギリスに渡り、後年はシドニーに定住しています。
その時にシドニーで建てた家が、これから紹介するナットコートです。
ちなみにここは、2018年公開のオーストラリア映画『Ladies in Black』のロケ地としても使われています。
メイ・ギブスのナットコート
『メイ・ギブスのナットコート』は、閑静な住宅街の中にあります。
5 Wallaringa Avenue, Kurraba Point, Neutral Bay NSW 2089
https://www.maygibbs.com.au/
水〜日 11am-3pm (館内入場は2.30pmまで) / 月・火・祝日 休館
館内は有料ですが、一度入れば時間制限はありません。
入場料 (2023年現在)
- 大人 $14.00
- コンセッション $12.50
- 子供 $6.00
- ファミリー (大人2人 & 子供最大3人) $42.00
※ 予約は8人以上の場合と、ハイティーをオーダーする人以外は必要ありません。ハイティーは日曜日のみ、入場料とガイドツアー込みで$60 (2023年現在) です。詳しくはこちらのウェブサイトを確認してください。
館内にはナットコートと庭園の他に、ギフトショップやカフェ、キッズコーナーなどがあります。
ナットコートについて
ナットコートが一般公開されるようになったのは1994年で、現在はノースシドニーカウンシルが所有する建物としてボランティアスタッフで運営されています。
メイ・ギブスの死後、ナットコートはユニセフに預けられたこともあったのですが、売却されました。しかし、取り壊しに反対した親族や友人によって1987年にメイ・ギブス財団が設立され、ナットコートを守るキャンペーンを展開。最終的に国有財産として登録されることになりました。
1990年にノースシドニーのカウンシルが買取り、メイ・ギブス財団はナットコートトラストと名前を変更。そして、夫の日記や当時の写真、雑誌インタビューに撮影されたものなどを手掛かりに、可能な限り家の中の家具などを1920年代〜1930年代当時のように復元しています。
「でも、この作家さんもキャラクターもよく知らないしなあ…」と思った人もいるかもしれません。
そんな人こそ、ぜひ日本語のガイドツアーを利用してみてください!もちろんよく知っている人にとっても、きっと新しい発見があります。
日本語ガイドツアー
所要時間約30分の英語ツアーは、通常午前11時30分、午後12時30分、1時30分、2時15分に行われていますが、日本語ガイドツアーは毎月第一、第三土曜日、第四水曜日に開催されています。
ですが、日本語ツアーは日程が変わることもあるようなので、事前にメールで予約してください。(日本語も可)
メイ・ギブスの人生や仕事について、当時のオーストラリアの様子などを日本語で聞くことが出来ますので、ぜひ。
ナットコートはこんなところ
ナットコートの入り口は小さく見えますが、中は広いです。
ここはもともとメイがよくブルーマウンテンズなどに出掛けていく時に使っていた車のガレージがあった場所で、住んでいた家は庭園の奥にあります。
ギフトショップ
中に入るとすぐ、ギフトショップがあります。
お土産やプレゼントにも喜ばれそうな本やベビーグッズ、その他にも色んな商品がたくさん。見ているだけでも楽しくて、ここだけでも満足してしまいそうになるくらいです。
ティールームカフェ
ナットコートには、カフェもあり、ここまでなら入場料を支払わなくても利用可能です。
※ カフェは運営側の都合でクローズすることもあるので、確実に利用したい場合は問い合わせてください。
メイ・ギブスのキャラクターが散りばめられた内装は、どこかレトロでかわいらしいですよね。
ボランティアの人が焼いた手作りスコーンがおすすめとのこと。普段はコーヒー派の私ですが、スコーンに合わせてイングリッシュブレックファーストの紅茶にしてみました。
日曜日のみ、予約すればハイティーも出来ます。
とてもおいしいスコーンでした
庭園
カフェからも見える英国風の庭園は、メイが植えていたオーストラリアの固有植物や外来種が再現されています。向こうに見える建物がナットコートです。
この時は8月で冬だったのですが、春になると、もっとたくさんの花が咲くみたいですよ。
そしてキャラクターの像もあります。これはビブ & バブですね。
ミセス・クカバラ。クカバラは日本語でワライカワセミです。
そしてナットコートの向こう側にも、シドニーハーバーが見える素敵なガーデンがあります。
現在はビルの影に隠れてしまっていますが、ハーバーブリッジが見えます。彼女はここで建設から完成までをみていたそうです。
そして下の岩場にも何かが…。
分かりにくいですが、オベリアの像でした。
バンクシアマンもいます。オーストラリア人の中には子供の頃にこのバンクシアマンが怖かったという人も少なくないようです。
バンクシアといえば、庭にはびっくりするほど大きな実のなったバンクシアもありました。シドニーの至る所で見掛けますが、こんなに大きいのはなかなかないかも。
彼女の作品は、子供の頃に過ごした西オーストラリア州のブッシュやシドニーのブルーマウンテンズ、そして彼女の両親や友人が既に他界したいた1950年代からは、この家の庭園からインスピレーションを受けていたようです。
さて、ではいよいよナットコートの中に入ってみましょう。
ナットコートへ
ナットコートは、建築家 B.J.ウォーターハウスにデザインを依頼して1925年に完成した家です。
メイ・ギブスが48歳の時から夫ジェームズ・オッソリ・ケリーと住み始め、彼女が92歳で亡くなるまでの44年間をここで過ごしています。
建てられた家は、メイ・ギブスのライフスタイルと要望に合わせて「コンパクトさ、利便性、魅力」を兼ね備えた設計になっていて、通常の B.J.ウォーターハウスがデザインするアーツ & クラフツスタイルの家とは違うものになりました。
B.J.ウォーターハウスの家の中では最も小さい部類になるので、「この家をナットコート」と名付けてはどうかとウォーターハウスがメイに提案したそうです。
この家の家具は、ほとんどが当時メイ・ギブスが使っていた家具と似ているものを揃えたものですが、このトランクは本人のものだそうで、うっすら名前も見えます。
メイと夫のジェームズは、寝室が別々でした。
メイが描いたジェームズの肖像画です。
メイの寝室からすぐバルコニーに出れるようになっています。素敵なバルコニーですよね。
ここはダイニング。
キッチンはとても小さいです。そして、料理をしていたのはジェームズだったそう。
現在の私たちから見ても、機能性に優れていて住みやすそうな素敵な家です。
これのどこが小さいんだろう?と思ってしまう人もいるかもしれませんが、この辺りにしては小さかったようですし、確かに売れっ子作家の家にしてはこじんまりとしています。
このピアノのペダルを踏むと、演奏が始まります。上にある箱から巻物を取り替えれば曲が変えられるんですって。
仕事場。メイはここで、オーストラリア初の女性漫画家として、この国で最も長く連載された漫画『Bib and Bub (1924年〜1967年)』を90歳まで描き続けました。
『Scotty in Gumnut Land (1941)』、『Mr and Mrs Bear and Friends (1943)』、『Prince Dandelion (1953)』も、ここで描かれています。
彼女は長編物語を出版する前に、ポストカードやグッズ販売もしていました。そんなものも展示されています。
左上の冊子は日本の母子手帳のようなもの、真ん中のクカバラがマスクをしている絵は、この頃ちょうどスペイン風邪が流行っていたからです。それに下の真ん中にあるブッシュベイビーの冊子は、第一次世界大戦中に戦ったオーストラリア兵士のものと思われ、フランスの豪の中で見つかっています。
そう聞かされると、いかに古いものか分かりますよね。
キッズコーナー
家の外に出て下に降りると、オーディオビジュアルルームとキッズコーナーがあります。
ここではメイ・ギブスが亡くなるちょっと前にインタビューを受けた時のビデオが流れていました。
そして、ここがキッズコーナー。
本やゲーム、ドレスやぬりえなどが用意されているので、子供が喜びそうですね。
ここにもバンクシアが。バンクシアマンのイメージがタブって、ちょっと不気味です。
ちょっと怖い?
ナットコートをハーバー側から見るとこんな感じ。反対の入り口側から見たら1階建てのようでしたが、こちらから見たら2階建てなのがわかります。
彼女が飼っていたスコティッシュテリアの家もここに。
トイレの中も忘れずに!
カフェの横にあるトイレにもディスプレイがあるので、そちらも忘れずに見てみてくださいね〜。
郵便局の壁にも
そして、ガイドさんが教えてくれたのですが、ニュートラルベイのメインストリートにある郵便局の壁もメイ・ギブスの絵が書かれています。
ナットコートからは少しだけ歩きますが、余裕があれば行ってみてください。
ナットコートへの行き方
最後に、メイ・ギブスのナットコートまでの行き方ですが、断然フェリーがおすすめです!
サーキュラキーの4番乗り場からニュートラルベイ行きのフェリーが出ています。このルートだと、オペラハウスとハーバーブリッジが間近で見れて良いですよ。
フェリーには名前がつけられているので、運が良ければメイ・ギブス号が見れるかもしれません。
シドニーに住んでいる人ならニュートラルベイと聞くと日本食レストランが多いプチジャパンなイメージが強いと思いますが、ナットコートがある辺りは何となく優雅な雰囲気が漂っています。
フェリーを降りたら、右側の坂を上ってください。
フェリー発着場にもナットコートの看板が
おわりに
ナットコートはゆっくりと時間が流れているような静かなところなので、あまり多くの人に知られたくないという気持ちと、もっとたくさんの人に知って欲しいという思いがあり複雑な気分になる、それくらい素敵な場所です。
せひ写真や文章だけではなく、実際に行ってオーストラリアのブッシュファンタジーに浸ってみてください。