オーストラリアの伝統的なお茶『ビリーティー (Billy Tea)』

オーストラリアの伝統的なお茶にビリーティー (Billy Tea) というものがあります。

オーストラリアの非公式国歌と言われる『ワリチングマチルダ』の歌詞にも登場しますし、アウトバックツアーなどに参加すると “ビリーティー付き” なんて書かれている事もあるので、名前を聞いた事がある人もいるのではないでしょうか。

ただ「一体どんなお茶なんだろう?」とよく知らなかったり、オーストラリアに長く住んでいても全く聞いた事がなかったりする人もたくさんいると思います。

でも、せっかくなので、少しだけオーストラリアの紅茶文化に詳しくなってみませんか?

という事で、今回はそんなビリーティーについてスポットを当てていきたいと思います!

ビリーティーはスーパーマーケットでも買える

Billy Tea

ちなみにですが、ビリーティーという名前のお茶は普通にスーパーマーケットでも売っています。

このビクトリア州リッチモンドにある会社のビリーティー、私は4代スーパーマーケットのひとつ IGA でしか売っているのを見た事がありませんが、他のスーパーマーケットでも売っているところは売っているようです。

ティーバッグタイプとリーフタイプがあり、濃厚でおいしいので私はよく買います。

原材料と味は?

このビリーティーの原材料は、Black Tea with 6% Kooloo Tea (Red leaf) だそうです。

Kooloo Tea は中国古来から広東省で作られている、ほんのり焦げた味がする赤いお茶で、ビリーティーの箱にもほのかなスモーキーな風味と独特なトーストされた味わいだと書かれています。

なるほど、濃厚な味はこれだったんだ、と納得です。本当にコクがある感じなので、ミルクティーにしてもおいしいですよ。

このレシピは昔ながらの味だそうで、1888年から1世紀以上にわたって飲まれています。

ただ、ちょっとややこしいのですが、このビリーティーは商標なので、ツアーや歴史上で語られるビリーティーとこのお茶は同一ではないかもしれません。

100年以上飲み継がれる伝統レシピ

なんと、1880年代に入ってからインドやセイロンのお茶を植民地時代のオーストラリアに広めたのは、このビリーティーを販売する会社のオーナーであるジェームス・イングリス (James Inglis) だったそうです。

1850年代のゴールドラッシュの時、オーストラリアには中国からも多くの人たちが来たのですが、その関係もあるのか、その頃のオーストラリア人は主に緑茶などの中国茶を飲んでいたらしいのです。

そう思うとこのお茶は、オーストラリアで飲まれているビリーティーの元祖と言えそうですね。

そして、ビリーティーの箱には更にこう書かれています。

For an authentic bush brew today, you don’t need a billy and a swag, just a Billy Tea bag.
本物のブッシュ煎じなら、ビリースワッグも必要ないよ、ただビリーティーバッグが必要なだけ。

『ビリー』や『スワッグ』は、伝統的なビリーティーを詳しく知るためのキーワードです。

ブッシュの生活を象徴するビリーティー

“Some Billy Tea after a hard morning ride” by Johan Larsson 1 May 2006

まず、ビリーティーの “ビリー” の意味ですが、これはお茶を沸かす缶のことを指します。

現在ではキャンプに使うしっかりしたつくりの湯沸かし用容器全般を指す事も多いですが、もともとは食べ終わった空の缶詰にワイヤーの取手を付けた簡素なものでした。

19世紀〜20世紀初頭頃、失業した人たちが農場などの仕事を求めて歩き回るスワッグマンたちが、キャンプファイヤーの火でお茶を沸かす時に使っていたのが始まりです。

ビリーティーはガムツリーやカンガルー、ワトルなどと同様に、ブッシュの生活には欠かせないアイテムとして、当時の絵や物語、詩などには必ずこのビリーティーが出て来ます。

また、ワルチングマチルダの曲にリンクするように開拓者精神象徴にもなりました。

ワルチングマチルダとビリーティーの関係

ビリーティーとワルチングマチルダの曲はセットで語られる事も多いのですが、そもそも今日私たちが知っているワルチングマチルダの曲は、20世紀初頭に最初に紹介したビリーティーを販売する会社のオーナー、ジェームス・イングリスが歌の権利を買い、コマーシャルソングとして曲と詩を書き換えたものです。

旧バージョンと新バージョンの違いは、別記事で比べてみてください。

なぜビリーと呼ばれるのか

ビリーという語源については諸説あり、アボリジニーの言葉である Billabong (流れのない水たまり)と関係があるのではないかとか、単に相棒のような感じで別に意味はないのではないかとか色々言われますが、先ほど紹介したビリーティーのメーカーによると、1851年のゴールドラッシュ時に坑夫たちが食べていたフランスの “Bouilli” という牛肉スープの缶詰の空き缶で作ったからでは、という事でした。

 

正式なビリーティーの作り方

当時はティーバックなどはなく紅茶の葉で沸かしていたビリーティー、作り方も独特です。

① ビリー缶に水を入れたら、火にくべて沸かす
② 沸騰したら火から下ろし、一握りのお茶の葉を入れる
③ 缶の取手を持ったら腕の長さまでグルグルと大きく振って、遠心力でお茶の葉を缶の底に沈める

こんな感じですが、この絵よりももっと大きく回します

④ 数分置いて蒸らす
⑤うわずみのお茶をマグカップに入れて出来上がり

缶を振るのは少し技術が必要で、躊躇していると火傷するので思い切ってやる必要があります。私たちも小学校の掃除の時間に、バケツに水を入れてグルグルと回しませんでした?あんな感じです。

風味をよくするために、ガムツリー (ユーカリ) の葉を入れる事もあります。

…でも、失敗して火傷したら危険なので、やっぱり私はティーバックを使います ^^;

オーストラリアで変容したイギリスの紅茶文化

オーストラリア大陸に白人が来るずっと前から、原住民の間でもティーツリーやペーパーバークなどの様々な植物から抽出したお茶が飲まれていて、植民地初期の囚人たちの中には原住民から教わった植物からお茶を作っていた人もいたようです。

しかし今日私たちが “紅茶” と呼んでいるタイプのお茶は、西洋人によって持ち込まれました。

1788年にイギリスの第一船団がオーストラリアのポートジャクソン (現代のロックス) に到着した時、船には多くの食料や家畜が積まれていて、その中にはお茶もありました。

ただし、お茶に関しては公式の積荷だったわけではなく、個人的に持ち込んだものだったそうです。第一船団の指揮官で植民地初代総督となるアーサー・フィリップも、自分で持って来たお茶をガバメントハウスで振る舞ったと言われています。

そうしてオーストラリアにも上陸したイギリスの紅茶文化でしたが、ビリーティーというオーストラリア独自の飲み方に発展して行きました。

 

おわりに

ビリーティーについて詳しく書いてみましたが、現代のオーストラリアの若者はワルチングマチルダの曲は知っていても、ビリーが何なのかを知らない人も多いようです。

でも、ちょっと詳しく知っていると、何となくいつも飲んでたお茶に重みを感じたり、楽しくなったりしませんか?

(参考: Billy | National Museum of Australia / Timeline: A short history of Australian tea – Australian Geographic / Cup of Tea? | National Library of Australia)