シドニーの LGBTQIA+ 中心地オックスフォードストリートの近くに『国立美術学校 (National Art School)』があり、その中に一般の人も入れる無料のアートギャラリーがあることは、あまり知られていません。
シドニー大学が SNS などで「ハリーポッターの映画に出て来そう!」と話題になることがありますが、こちらの雰囲気もかなり歴史を感じる重厚さがあります。
というのもここ、2021年にニューサウスウェールズ州遺産リストにも登録されているシドニーで最も古い刑務所のひとつ『ダーリングハースト刑務所 (Darlinghurst Gaol)』の 跡地でもあるんです。(幽霊が出るというウワサも…?)
ダーリングハーストにはおしゃれな飲食店もたくさんありますので、歴史と美術を堪能しつつ、色々と散策してみると楽しいのではないでしょうか。
※ 美術館は無料ですが展示がない時はクローズしているので、ウェブサイトで予定をチェックしてください。
ダーリングハーストにある国立美術学校
テイラースクエア向かい側にあるダーリングハースト裁判所
国立美術学校 (National Art School) は、オックスフォードストリートのテイラースクエア (Taylor Square) の近く、ダーリングハースト裁判所 (Darlinghurst Courthouse) の裏手にあります。
つまり、ハイドパークやミュージアム駅からそんなに遠くありません。
なので、339や311のバスが美術学校の近くに停まりますが、シティからなら徒歩でもすぐいけます。
この広場の奥を入って裏道を通っても
ただ、この美術学校、裁判所の影に隠れて入り口が裏通りにあるので、シドニーに長く住んでいる人でも存在を知らない人も結構いるようです。
隠れた名所というところでしょうか。
現在建物の一部を修復中のようで、外壁には歴史について説明が書かれてました。
入り口には警備員の人が立っているので、初めてだとちょっと緊張するかもしれませんが、普通に中に入れます。
156 Forbes St, Darlinghurst NSW 2010
https://nas.edu.au/
アートギャラリー: 月〜土 11am–5pm (グッドフライデー、イースター、アンザクデーなどは休館)
では、この学校敷地内の様子を紹介する前に、ちょっとだけ歴史も説明しますね。
歴史ある国立美術学校
現在では国立美術学校になっているこの場所は、オーストラリア植民地時代初期の最も古い刑務所 (監獄) のひとつでした。
刑務所だったのは1841年から1914年までの73年間で、その間に様々な人々が収容されています。ここで絞首刑に処された人も76人いて、幽霊が出ると言われているのも、このことがあるからです。
処刑された人の中には、キャプテン・ムーンライトとして知られるブッシュレンジャーのアンドリュー・ジョージ・スコット (Andrew George Scott) やアボリジナルのアウトローだったジミー・ガバナー (Jimmy Governor)、そしてこの刑務所で処刑された唯一の女性でありニューサウスウェールズ州最後の女性処刑者 (1889年) となったルイーザ・コリンズ (Louisa Collins) もいました。
1852年までは絞首台が外にあり、一般の人々もその様子を見ることが出来ていたということなので、そう考えるとやはり歴史を感じますね。
また、収容されていた人の中には著名人もいて、妻子への慰謝料を支払わなかったことで有罪になった作家、ヘンリー・ローソン (Henry Lawson) は、服役中のことを書いた『One-hundred-and-three』という詩を残しています。
シドニーの歴史を物語るサンドストーンの建物
そんな刑務所跡地に国立美術学校が移転して来たのは、1922年のことです。
美術学校は1843年に設立されたシドニー機械工芸術学校 (Sydney Mechanics’ School of Arts) に起源があり、当時シドニー工科大学 (Sydney Technical College) の一部でしたが、後に東シドニー工科大学 (East Sydney Technical College) と名前が変わり、1996年には独立した教育機関として確立されました。
2022年は刑務所200周年と美術学校100周年を記念してInside the Walls というツアーが開催されていたようですよ。
一般の人が国立美術館でできること
国立美術学校の中にはアートギャラリーや画材を売るお店、図書館などがあり、オープンデーやショートコースもあります。
現地に住んでてアートに興味があるなら、参加してみても良いのかもしれませんね。
ちなみに、中央の礼拝堂を中心に7つの建物が放射線状に建っているのが特徴的な学校ですが、1841年に最初の囚人が収容された時はまだ男女それぞれの独房と看守の住居だけだったそうです。
その後も増築されていき、1822年からスタートした建築は1824年に資金不足のため一旦作業はストップしたものの、1836年には再開。主要な建物は1872年頃にはだいたい完成したそうで、トータル50年ほどかかっています。
もともとサーキュラキーの刑務所が手狭になったので建てられたダーリングハースト刑務所でしたが、1900年頃にはこの刑務所も狭くなり、1912年のロングベイ刑務所 (Long Bay Gaol) のオープンに伴い、ダーリングハースト刑務所は閉鎖されました。
余談ですが、刑務所の建築家のひとりである Mortimer Lewis は、隣接する裁判所 (1844年完成) も設計していて、現在は封鎖されていますが裁判所から刑務所につながるトンネルもあったそうです。
そんな時代のことを想像すると、現在と全く違うオーストラリアにタイムスリップしたような気分になりませんか?
この画材屋さんは一般の人も利用出来るみたいで、美術学校だけあって品揃えが良いと聞きました。
こちらは図書館です。
『NAS Galleries』という美術館は、作品展開催期間中は一般の人も無料で入れます。
NAS Galleries (美術館)
アートギャラリーの開館時間は、月〜土の午前11時から午後5時です。ただし、作品展がある時しか開いていないので、日程はウェブサイトで確認してみてください。
実は私もある方にここの存在を教えてもらい連れて来てもらったのですが、その時「OCCURRENT AFFAIR (2023年6月24日〜8月5日)」展が終わりかけの頃でした。
この展示はもう終わってしまいましたが、2021年のブリスベンのクイーンズランド大学美術館 (University of Queensland Art Museum) から始まり、2023年から2025年は、ニューサウスウェールズ州の博物館や美術館を巡回するそうなので、またどこかで見かける人もいると思います。
本も売ってました
proppaNOW という2003年にブリスベンで設立された都会に住むアボリジナルの人々のアート集団の作品展で、アボリジナルの旗をめぐる問題をテーマにした作品、実際にブリスベンの抗議活動で使われた幕、かつてのクイーンズランド州首相の絵など、アボリジナルコミュニティに影響を与える現在も進行中の状況、問題などに焦点が当てられています。
彼らのアートについては、ウェブ版の『地球の歩き方』で詳しく書かせていただいたので、興味があれば読んでみてください。
ご縁があり、この記事を書く機会を頂けたこと、感謝します。
おわりに
オーストラリアの西洋化における歴史は1788年からと浅いのですが、調べてみるとなかなかに濃厚で興味深いんです。
シドニーの植民地時代の建物にはこういったサンドストーンがよく使われていて、この国立美術学校のように現代も現役で使用されていることも珍しくありません。
自然や派手な観光スポットばかりに目が行きがちですが、こういう歴史的建造物もシドニーの重要な一部なので、機会があれば味わってみてください!