国章にも描かれているオーストラリアの国花 ワトル

日本の国花は菊と桜ですが、オーストラリアの国花 (National Flower) は何でしょう?

ワールドカップのユニフォームにも使われているオーストラリアのナショナルカラー緑と黄色 (ゴールド) も実はこの花から来ています。

それは、ゴールデンワトル (Golden Wattle) という花です!

オーストラリアの国章にも、ちゃんとワトルが描かれているんですよ〜!

 

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ワトルってどんな花?

国花となっているゴールデンワトルは春頃に咲く黄色く丸い花で、ネムノキ科 (Mimosaceae) アカシア属・学名: Acacia pycnantha です。

主にオーストラリア南東部 (ACT周辺や南オーストラリア州のアデレードヒルズ、ビクトリア州の広域) に多く生息し、約4m〜8mの低木で、冬の終わる8月頃から早春にかけて開花します。

“ワトル” という名前はオーストラリアの呼び方で、ヨーロッパなどではミモザ (Mimosa) またはアカシア (Acacia) と呼ばれているので、そちらの方がなじみがある人が多いかもしれません。

ワトルは種類が豊富

ひとことでワトルと言っても、このアカシア属の花は世界中で1350種類以上も存在します。アフリカやポリネシアなどの乾燥した地域にも多く生息していますが、そのうちの約1000種類近くがオーストラリアで見る事が出来ると言われ、特に西オーストラリア州には約450〜500種のワトルが生息しているとの事。

これも Prickly Moses (学名 Acacia ulicifolia) というワトルです。

ぱっと見は似ていても、よく見ると花や葉が違っていたり同じ名前が付いたりと、ワトルは種類を見分けるのに混乱しやすい花です。なので、はっきりした品種を知りたいなら学名を見ると間違いありません。

ほとんどのワトルは10年〜20年くらいと短命ですが、200年から300年生きる長寿な品種もあり、中には雪の下でも生き残れる品種もあるそうです。

オーストラリアで頻繁に起こるブッシュファイヤー (山火事) の火により発芽する硬い種子を持ち、その頑丈な皮のお陰で荒漠​と​し​た​土地​で​も​生き​続け​られる​事が出来ます。

自分で種から育てる時には、基本的には熱湯につけて発芽させなければいけないのですが、特別に処理されている場合もあります。
ワトルを種から育ててみよう!盆栽観察日記 その①

オーストラリアにとってのワトル

ワトルは木材としても優秀で、古くは先住民であるアボリジニのブーメランや槍、楽器や装飾などにも使用されており、一般的にも高品質の家具やベニヤ板となったり、よく燃える薪としても活用されています。そして、ある種の種子は食料や薬になる栄養価の高いブッシュフードとしても知られています。

オーストラリア公式の春である9月1日に春の訪れを祝う象徴の花でもあり、多くのオーストラリア人にとって郷愁をかきたてられる花のようです。

何よりも、ナショナルカラーに使われ国章にも描かれている、オーストラリアにとってはとても馴染みの深い花と言えます。

オーストラリアの国章

こちらがオーストラリアの国章です。そして、カンガルーとエミューの後ろにある黄色い花がゴールデンワトル。

この国章は1912年9月19日にイギリス国王ジョージ5世によって贈られた国章で、最初の国章にオーストラリアの6つの州の紋章とワトルの花が加えられ、色も黄色 (ゴールド) が主体となっています。

最初の国章は、1901年にイギリスの連邦国家として独立した後の1908年、イギリス国王エドワード7世に国章が贈られました。

その時は主に青とゴールドで描かれていていてワトルの姿はありません。(ちなみに、カンガルーとエミューは前進しかしない動物という事から、オーストラリアも常に前進するという意味が込められています。)

しかし、正式に国花となったのは1988年と、意外に遅いです。

ナショナルカラーと国花の決定

実はオーストラリアの国花が正式に発表されるよりも先に、1984年4月19日にナショナルカラーの緑とゴールドが決定されています。

それまでははっきりとしたナショナルカラーがなく、青とゴールドなどを使う人もいて混乱を招いていたようです。現在も青色はワトルの背景の空の色として使われてる事はありますがそれは非公式で、正式には緑とゴールドです。

国花となったのは1988年9月1日で、通称ワトルレディとして知られるマリア・ヒッチコック (Maria Hitchcock) が数年間に及ぶ全国キャンペーンを実施して正式なに認められました。

ワトルと呼ぶ由来

この植物、なぜオーストラリアでは “ワトル” と呼ばれるようになったのか?それは18世紀の初期開拓時代まで遡ります。

もともとワトル (Wattle) という言葉はアングロサクソン (つまりイングランド) の言葉で “しなやかな枝”“その枝で編んだ木枠” を指す言葉です。

オーストラリア入植初期のポートジャクソン開拓地 (現在のシドニーのロックス) では、そのワトルと呼ばれる木枠に泥を塗って“Wattle-and-daub huts (木の枝と土壁の小屋)” という家が建てられていたのですが、その時にシドニー周辺に多く生息していたアカシアの木をワトルとして使っていたのです。

そのアカシアの木をワトルと呼んでいるうちに木の名前として定着し、そのうちアカシア属全般を指す言葉として使われるようになったようです。

The old wattle and daub by MrPanyGoff

ただし、この時シドニーで使われたワトルは国花になっているゴールデンワトルではなく、シドニーゴールデンワトル (またはイエローワトル) という種類のワトルです。

シドニーゴールデンワトル

こちらがシドニーゴールデンワトル (Sydney Golden Wattle / Yellow Wattle・学名: Acacia longifolia です。国花であるゴールデンワトルとは全然花の形が違いますよね。

このワトルは主にニューサウスウェールズ州やビクトリア州が生息地で、開花時期は冬から春にかけてちょうど8月頃です。

しかし他の品種のワトルも、各地で入植者たちの間で親しまれていました。

ワトルは春の象徴

ワトルに関するオーストラリアのいちばん古い記録は、1838年12月1日から始まったタスマニアの州都ホバートの中でも最も古い Regatta という地域で行われていたお祭りです。

これは、17世紀にタスマニアを発見したオランダ人のアベル・タスマン (Abel Tasman) を記念したお祝いで、この日はワトルを身に付けるのが習慣とされ、1883年までの45年間続けられていました。

1890年には、南オーストラリア州でジャーナリストの W. J. Sowden によって “Wattle Blossom Day” が開催された事もあります。

しかし、オーストラリアワトルが春のシンボルとして認識されるようになったのは、鳥類学者で博物学者であるアーチボルド・ジェームズ・キャンベル (Archibald James Campbell 1853 – 1929) の存在も大きいでしょう。

キャンベルはビクトリア州を拠点に長年オーストラリアの鳥の研究をし、野鳥雑誌の編集に関わったり論文を書いたり30種程の鳥の名前を命名したりした人です。

そんな彼はワトル愛好家でもあり、1908年頃から “ワトルの日” を作る事を提案していて、1899年にワトルを鑑賞する散策イベントワトルクラブ を創設。それは数年にわたって開催されていました。

1910年9月1日には第1回目のシドニー、メルボルン、アデレードでの春の遠足イベントを企画。その時、メルボルンは大雨で大変だったそうです。

ワトルデーを9月1日に統一

ゴールデンワトルを国花とするキャンペーンを行ったマリア・ヒッチコックの事は前述しました。彼女はそれだけではなく、それまで各州でバラバラに祝われていたワトルの日を統一しようと呼びかけた人でもあります。

1992年にそれが各州の首相に認められ、正式にワトルの日が “National Wattle Day” として、全州9月1日に統一されました。

ワトルの開花時期は州によって違うので、この日はどの種類のワトルを身に付けても良い事になっています。

ただ、このワトルの日が現在どれほど国民に浸透しているのかと言えば、それほど世間に知られていない印象です。

ワトルの旗⁉︎

そして、こんなゴールデンワトルをモチーフにしたワトルの旗があります。

これは、2015年にオーストラリアのアイデンティティを表す新しいシンボルとして作られた旗で、団結力とそれを結びつける自然と土地の美しさを表しています。人種、言語、信念、意見で区別する事なく、全ての人が平等に統一されているという意味が込められているそうです。

この旗が作られた背景には、オーストラリアのアイデンティティが大きく関わっています。

近年のオーストラリアは4人に1人が外国生まれという中、イギリス女王の誕生日を祝日にして祝うのはどうなのかとか、アンザック神話を語るアンザックデーに関わりのある子孫はどれくらいいるのかという問題も浮上しています。

特に1月26日のオーストラリアデーは白人がオーストラリア大陸を侵略した日という事で、長い間先住民アボリジニの人たちがデモ行進などの抗議をしている日でもあるのです。

そういう背景もあり、このイギリスの象徴であるユニオンジャックが国旗についているのはどうなのか?という事から、それならアボリジニにも深い関わりがあって白人系オーストラリア人にとって心のふるさとでもあるワトルの日をオーストラリアデーの代わりに国を讃える日にしたら良いのではないか、という意見も一部から出てはいるようです。

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オーストラリア各州花

ちなみに各州にも州花があるんですよ。
下が一覧です。(写真はないです、ごめんなさい。撮ったら載せます。)

クイーンズランド州 (QLD)
Cooktown Orchid
(学名: Vappodes phalaenopsis)
Official in 1959.

ニューサウスウェールズ州 (NSW)
Waratah
(学名: Telopea speciosissima)
Official in 1962 by Governor Sir Eric Woodward.

オーストラリア首都特別地域 (ACT)
Royal Bluebell
(学名: Wahlenbergia gloriosa)

ビクトリア州 (VIC)
Pink Common Heath
(学名: Epacris impressa)

南オーストラリア州 (SA)
Sturt’s Desert Pea
(学名: Swainsona formosa)
Official in 1961.

タスマニア州 (TAS)
Tasmanian Blue Gum
(学名: Eucalyptus globulus)
Official in 1962.

西オーストラリア州 (WA)
Red and Green Kangaroo Paw
(学名: Anigozanthos manglesii)
Official in 1960 by David Brand.

ノーザンテリトリー (NT)
Sturt’s Desert Rose
(学名: Gossypium sturtianum)

おわりに

春先にブッシュウォーキングなどをするとワトルの花をよく見掛けるかもしれません。何気なく外を歩く時、ちょっと周りの草花を意識してみると楽しいかもしれませんね。

>Acknowledgement to Country

Acknowledgement to Country

This website would like to acknowledge Aboriginal and Torres Strait Islander people, the traditional custodians of this land and pay our respects to Elders both past and present.このウェブサイトは伝統的な土地の所有者であるアボリジナルおよびトレス海峡諸島の人々、そして過去と現在の長老に敬意を表します。