昔はよく学校やテレビで「ヘアスプレーなどから排出されるフロンガスが原因で、オゾン層が破壊される」という話を耳にしていた記憶があります。
ただ、その話と一緒に紹介される国がオーストラリアだったので、私は「オーストラリアの紫外線が強いのは、オゾン層に穴が空いているのも原因のひとつ」と思ってしまってました。だから、一体どこに空いてるんだろう?と。
ですが、少し情報が混じっていたようです。
確かにフロンの話は本当ですし、オゾンホールの影響を受ける地域があるのは事実ですが、実際のオゾンホールはオーストラリア上空ではなく、南極上空。そして、季節的に形成される現象でした。
ただし、オーストラリア南部では、南極から広がったオゾンの少ない空気の影響で、オーストラリア上空のオゾン量が一時的に減ることはあるのだそう。
この記事では、オゾン層の役割から南極でオゾンホールができる仕組み、オーストラリアやニュージーランドへの影響、そして現在の回復状況までを整理しました。
※ 記事内のイメージ画像はAIで作成しています。科学的な数値や位置関係を示すものではありません。
- 南極のオゾンホールがオーストラリア上空まで広がったことはありません。
- オゾンホールが現れる時期には季節性がありますが、深刻な破壊を引き起こした主因は人間が放出したフロン類です。
- オーストラリア上空でもオゾン層全体の薄化は観測され、南極のオゾンホールが崩れた後の空気が南半球中緯度のオゾン量に影響することがあります。
- 国際的な規制によって回復へ向かっていますが、南極上空の回復には今後も数十年かかる見込みです。
オゾン層とオゾンホールについて

オゾンは酸素原子が3つ結び付いた気体で、地表から約10〜50キロメートル上空の成層圏にあるオゾンが比較的多く存在する層が、一般的に「オゾン層」と呼ばれている領域です。
このオゾン層が、太陽から地球へ届く紫外線の中から、有害なUVB(紫外線B波)の多くを吸収してくれています。
オゾン層が破壊されて穴が空いた状態をオゾンホールと呼びますが、穴といっても、正確には上空から地上までに存在するオゾンの総量が非常に少なくなった範囲を指します。
NASAなどは、南極のオゾンホールの面積を、オゾン全量が220ドブソン(DU)未満となった領域として算出しています。220 DU は世界共通の危険ラインではなく、1979年以前の南極では観測されなかったほど低い値だったため、南極のオゾンホールを測る基準として採用されたものです。
だから大きさや形は、その年の成層圏の気温や風によって変化します。(オーストラリア政府:The Antarctic ozone hole)
南極のオゾンホールは毎年ほぼ同じ季節に現れて消えるため、自然の季節現象のようにも見えなくはありません。しかし、現れる時期を決めるのは南極の季節と気象条件ではあるものの、深刻なオゾン破壊の材料を供給したのは人間の放出した化学物質です。
もしオゾンが少なくなれば、皮膚がんや白内障、遺伝子への損傷だけでなく、農作物や生態系にも影響が及んでしまう危険があります。(オーストラリア気候変動・エネルギー・環境・水省:The ozone layer)
オゾンホールの原因は、ヘアスプレーのフロンガス?

オゾンホールは、かつて注意喚起されていたように、ヘアスプレーの出すフロンガスも原因のひとつです。
ですが、ヘアスプレーだけではなく、フロン類であるCFC(クロロフルオロカーボン)を中心とするオゾン層破壊物質は、かつて一部のスプレー缶の噴射剤をはじめ、冷蔵庫やエアコンの冷媒、発泡剤、消火設備などに広く使われていました。そのほかにも、消化設備に使われていたハロンなども原因になっています。
地上では安定しているため便利だった反面、大気中へ放出されると長い年月をかけて成層圏へ到達。そこで強い紫外線を受けると、CFCから塩素が、ハロンなどから臭素が放出され、化学反応を繰り返しながら数多くのオゾン分子を壊していきます。(オーストラリア政府:オゾン層を破壊する物質)
人間がCFCなどを大量に放出する以前にもオゾン量の季節変化はありましたが、現在「オゾンホール」と呼ばれる規模の急激な減少がはっきり現れるようになったのは20世紀後半です。
1985年、イギリスの研究チームが南極上空の異常に低いオゾン濃度を報告し、世界的な対策が進むきっかけとなりました。
オゾンホールの位置や影響、南極上空に形成される理由

オゾンホールは南半球の春、南極上空に形成されます。
ただし、オーストラリアの研究機関CSIROは、南極のオゾンホールがオーストラリアへ到達したことはないと明記していますし、タスマニアの真上にオゾンホールがあるという話も事実ではありません。(CSIRO:The future of the ozone hole)
| よくあるイメージ | 実際は? |
|---|---|
| ❌ オーストラリアの一部では、オゾン層に穴が開いている | ⭕ 大規模なオゾンホールが形成されるのは南極上空です。オーストラリア上空まで広がったことはありません。 |
| ❌ オゾンホールは一年中存在する | ⭕ 南極の晩冬から春に形成され、通常は11月末から12月ごろに消えます。 |
| ❌ 季節ごとにできる自然現象なので、フロンとは関係ない | ⭕ 季節と気象条件が形成時期を決めますが、深刻な破壊の主因はCFCなどに由来する塩素や臭素です。 |
| ❌ オゾンホールが小さくなれば、オーストラリアの紫外線(UV)問題もなくなる | ⭕ オーストラリアの強い紫外線(UV)には、緯度、太陽の高さ、地球と太陽の距離、晴天など複数の要因があります。 |
ただ、オゾンホールそのものはオーストラリアまで届きませんが、オゾン層の薄化は南極だけの問題ではありません。
オーストラリア政府によると、オーストラリア上空のオゾン量は、1960年と比べて5〜9%減少しています。これは南極の穴がオーストラリアを覆ったという意味ではなく、オゾン層破壊物質による広域的な変化です。(オーストラリア政府:オーストラリア上空のオゾン量)
また、南極の極渦が崩れる時期には、オゾンの少ない空気が周囲の空気と混ざりながら、オーストラリア南部やニュージーランドなどが位置する南半球の中緯度へ広がり、オゾン量に影響することがあります。(オーストラリア政府:Antarctic Ozone Hole Summary reports)
ただし表にもあるとおり、オーストラリアの紫外線の強さは、オゾンホールだけの影響ではないので、そこは分けて考える必要があります。
オーストラリア北部と南部では「紫外線が強い理由」も違う

ダーウィンやケアンズなど北部オーストラリアでは、南極のオゾンホールによる影響よりも、赤道に近く、太陽が高い位置を通ることが強い紫外線の大きな理由です。
一方、タスマニアを含む南部では、南半球中緯度のオゾン変動による影響を受ける場合があります。それでも、「南へ行くほど紫外線が必ず強い」とは限りません。地上のUVの強さは、オゾン量だけでなく、緯度、季節、時刻、雲、標高、反射などが合わさって決まるからです。
つまり、オーストラリアの紫外線は、北部では太陽の高さが大きく影響し、南部では南極に近い大気の変化が多少加わる場合があるものの、国全体で原因が同じとは言えません。
これはオーストラリアよりも南に位置するニュージーランドも同じです。
ニュージーランドには、オゾンの少ない空気が移動することも

ニュージーランドの国立研究機関Earth Sciences New Zealand(旧NIWA)は、夏になると南極のオゾンホールに由来するオゾンの少ない空気がニュージーランド上空へ移動し、もともと強い夏の紫外線をさらに押し上げる場合があると説明しています。(Earth Sciences New Zealand:Atmospheric ozone, ultraviolet radiation, and stratospheric change)
ただしニュージーランドでも、南極に近い南島ほどUV指数が常に高くなるわけではありません。太陽がより高くなる北島のほうが、夏のUV指数のピークは高くなりやすくなります。

だから、オゾン層が回復すればオゾン減少によって上乗せされていた紫外線は抑えられます。
しかし、オゾンホールが縮小している現在も、オーストラリアでは紫外線対策が必要です。(ARPANSA:Why is there so much solar UVR in Australia?)
オーストラリアのUVが日本と比べてどのくらい強いのか、旅行や生活でどう対策するかは、別記事で詳しく説明しています。
ところで疑問に思いませんか?なぜ南極なのでしょうか。北極はどうなのでしょうか。
なぜ北極より南極で大きなオゾンホールができる?
フロン類は世界各地で使われていたのに、なぜ大きなオゾンホールは南極上空にできるのでしょうか。鍵になるのが、冬の南極を取り囲む極渦(polar vortex)と、極端な寒さです。
- 南極の冬、成層圏が極端に冷える
太陽が昇らない極夜が続き、上空の気温も大きく下がります。 - 極渦が冷たい空気を閉じ込める
南極の周囲を吹く強い風が巨大な渦を作り、南極上空の空気と中緯度の暖かい空気が混ざりにくくなります。 - 極成層圏雲ができる
極端に低い温度になると、通常の雲よりはるかに高い成層圏に特殊な雲が形成されます。その粒の表面で、塩素をオゾン破壊に関わりやすい状態へ変える反応が進みます。 - 春に太陽光が戻り、破壊反応が始まる
冬の暗闇の中で準備された物質が、春の光をきっかけに反応し、オゾンを急速に壊します。 - 暖かくなると極渦が崩れる
晩春から初夏に中緯度のオゾンを多く含む空気が流れ込み、オゾンホールは通常、11月末から12月ごろに消えていきます。
参考:オーストラリア政府:南極のオゾンホールが形成される仕組み
地球の自転は関係している?
地球の自転は大気の流れを曲げ、極地を取り囲む風の形成に間接的に関わっています。ただし、自転そのものがオゾンを壊しているわけではありません。
オゾンホールを生むのは、大気の流れによってできる安定した極渦、極端な低温、極成層圏雲、太陽光、そして人為起源の塩素や臭素がそろったときに起こる化学反応です。
北極にもオゾンホールはある?
北極にも冬の極渦があり、条件がそろえば大規模なオゾン減少が起こります。2011年には、北極でも「オゾンホール」と表現されるほど低い値が観測されました。
ただし北極は、海の周囲を大陸や山脈が取り囲んでいるため、南極より大気の流れが乱れやすく、成層圏も一般に暖かめです。極渦が長期間安定しにくいため、南極のような大規模なオゾンホールが毎年できるわけではありません。
最近「フロンガスとオゾンホール」を聞かなくなった理由と現状
最近あまりフロンガスやオゾンホールの話を聞かなくなったのは、なぜでしょう?
オゾン層問題が嘘だったとか、すでに完全解決したからとかではなく、世界各国が原因物質を規制し、対策が実際に成果を上げたからです。
1987年に採択されたモントリオール議定書では、CFCをはじめとする主要なオゾン層破壊物質を段階的に廃止することが決められました。現在までに、規制対象となった物質の生産・消費の99%以上が廃止されています。(世界気象機関:オゾン層回復の進展)
そのため、かつてのように「ヘアスプレーを使うとオゾン層が壊れる」と、個々の消費者へ呼び掛ける場面は少なくなりました。現在は、冷蔵・空調設備などに使われるガスの製造・輸入・回収・廃棄を、国際協定と各国の制度によって管理する問題へ移っています。
なお、CFCの代替として広がったHFCはオゾン層を破壊しませんが、強力な温室効果ガスです。このため2016年のキガリ改正では、HFCも段階的な削減対象になりました。オゾン層保護から始まった国際協力は、気候変動対策にもつながっています。
オゾンホールは現在どうなっている?
オゾン層破壊物質の濃度は減少し、オゾン層は長期的には回復へ向かっています。ただし、CFCなどの中には大気中に数十年から100年以上残るものもあるため、規制を始めてもすぐに元へ戻るわけではありません。
2025年の南極オゾンホールは、1992年以降で5番目に小さく、例年より早い12月1日に消滅しました。これは長期的な回復傾向と整合しますが、オゾンホールの規模はその年の成層圏の気温や極渦にも左右されます。1年だけの大小で、回復が完了したとは判断できません。(オーストラリア政府:2025年の南極オゾンホール)
世界気象機関(WMO)が2025年に紹介した、2022年の科学評価に基づく見通しでは、現在の政策が続いた場合、オゾン層が1980年ごろの水準へ戻る時期は次のように予測されています。
| 地域 | 1980年ごろの水準へ戻る見込み |
|---|---|
| 世界の大部分 | 2040年ごろ |
| 北極上空 | 2045年ごろ |
| 南極上空 | 2066年ごろ |
出典:World Meteorological Organization, 2025
オゾン層問題は、環境対策の成功例でもあります。
科学者が異変と原因を突き止め、各国が協定を結び、産業が代替物質へ移行した結果、悪化を食い止めて回復への道筋を作りました。ただし、完全な回復には長い時間がかかるため、国際的な規制と観測を続ける必要があります。
「オーストラリアとオゾンホール」の本当の関係
オーストラリアの上に、オゾンホールはありません。ですが
一方で、昔聞いた「フロンがオゾン層を壊す」という話は事実であり、オーストラリア上空でもオゾン層の薄化が観測されてきました。南極のオゾンホールは、南半球中緯度のオゾン量や大気の流れにも影響します。
北部オーストラリアで紫外線が強い主な理由は、赤道に近いことです。南部やニュージーランドではそれに加えて南極側の大気変化から影響を受ける場合があります。同じ国や地域でも、強い紫外線が生まれる背景は一つではありません。
そして現在、オゾン層は国際的な対策によって回復へ向かっています。最近ニュースで聞く機会が減ったのは、問題が存在しなかったからではなく、科学的な発見が世界の行動へ結び付き、長い時間をかけて成果が現れ始めているからなのです。
情報確認:2026年9月。本文は、オーストラリア政府、CSIRO、ARPANSA、世界気象機関(WMO)、Earth Sciences New Zealand(旧NIWA)の公開資料をもとに作成しています。将来予測は政策の継続や大気の状態などによって変わる可能性があります。
