シドニーの隠れた宝石『フィリップベイ (Phillip Bay)』のサバーブ探索

シドニー中心部から南東へ約17km、シドニーのイースタンサバーブ、ランドウィック市の中でも最も小さなサバーブであるフィリップベイ (Phillip Bay)

シドニー育ちの私のパートナーが「そんなサバーブあったっけ?」というくらい知名度はないのですが、素朴なビーチや公園があるだけでななく、オーストラリアにおける西洋化の歴史にも重要な場所です。

また、アボリジナルコミュニティと深く繋がっている土地でもあります。

調べてみると色々な情報がたくさん出て来て、記事にまとめるのがまあまあ大変だったのですが、やっぱり私も思ってしまいました。

「フィリップベイは、いつまでも多くの人にあまり知られていない秘密のスポットであり続けて欲しい」と。

記事に書いておきながらそう思っているので、矛盾してますけどね。

 

フィリップベイの魅力はこれ!

Phillip Bay

 

シドニー中心部から公共交通機関でフィリップベイまで行くには、直通のバスがなくて少し面倒なので、車がおすすめです。駐車場はたくさんあります。

公共交通機関で行く場合

シティからバスだと 394Xに乗ってリトルベイで降りるか、途中までライトレールで来てバスに乗り変えてリトルベイで降りるのが近いです。マトラビル (Matraville) で降りてポートボタニー (Port Botany) 側から行っても良いでしょうね。

 

自然豊かで、魚介類や植物などに恵まれたこの地域は、もともと Guriwal の人々の土地でした。

 

西洋人の入植は、1788年1月26日にアーサー・フィリップ (Arthur Phillip) が率いる囚人を乗せた11隻の船 (第一船団) がシドニーコーブに到着し始まったわけですが、ここフィリップベイはその直前の1月18日に停泊した場所でもあります。

この場所に停泊したのは、ボタニー湾が1770年にキャプテン・クックの船が上陸した場所 (対岸のカーネルに上陸記念碑がある) であり、その時に同行していた植物学者のジョセフ・バンクスがこの地に流刑地を作ることを強く推していたからです。

ですが、アーサー・フィリップは HMS Supply号を一旦この地に停泊させたものの、土壌や水源が住むには適していないと判断して、シドニーコーブ (現在のサーキュラキー) まで北上しました。

Eri
Eri
あっ!多くの歴史的資料には「ボタニー湾」としか書いていないけど、アーサー・フィリップが停泊したのは、ここだったのね。
つまり、ここがシドニー中心部になる可能性があったってこと⁉︎ そしたらオーストラリアデーは1月18日だったかもね。

バイセンテニアルパークには、アーサー・フィリップ上陸記念碑もあります。

 

ちなみに、ジョセフ・バンクスに関しては、フィリップベイよりも西のボタニーという地域に色々見れますよ。

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Sir Joseph Banks Park

 

そして、そのわずか数日後の1月26日には、この辺りにルイ16世に太平洋探索を依頼されたラ・ペルーズ伯ジャン=フランソワ・ド・ガロー率いるフランス遠征隊もこの地に来ていました。

詳しくはまたラペルーズを紹介する時に書く予定ですが、こうやって掘っていくと、面白い情報がたくさん出て来ますね!

 

フィリップベイの名前の由来は、もちろんアーサー・フィリップからです。後に湾の名前はアボリジナルの言葉からヤラベイと変更されましたが、サバーブの名前として今も残っています。

この地域の住民

1920年代後半、大恐慌時代の煽りを受けて失業した多くの西洋人が、この地に移り住んで来ました。

1940〜50年代には、新しいオーストラリア人としてポーランド、ウクライナ、マルタなどの国々から移住して来ましたが、仕事はあっても住宅不足のためにホームレスになる人もいたと言います。

それでも代々この地で暮らすガリワルのコミュニティは強く、1983年にニューサウスウェルズ州で制定された先住民土地権利法 (Aboriginal Land Rights Act) に基づいて、ラペルーズ・ローカルアボリジナルカウンシル (La Perouse Local Aboriginal Land Council) が設立されています。

 

逃れられたフィリップベイ環境破壊の危機

2018年にニューサウスウェールズ州政府が、このエリアにクルーズ船ターミナルを建設する計画を立てていましたが、ランドウィック市のカウンシルが断固反対し、5年の歳月をかけて阻止しました。

サーキュラキーの海外客船ターミナルの収容能力に限界があるのと、巨大クルーズ船がハーバーブリッジの下を通ってホワイトベイまで行くことが不可能なため、ヤラベイとポートボタニーのモリニュークスポイントが提案されていたのです。

Phillip Bay

確かに、ここにクルーズ船が行き来するようになれば、静かなフィリップベイは全く違うものになってしまったでしょうね。

 

色んな歴史があって長くなってしまいましたが、そんなフィリップベイの主な見どころは、ヤラベイビーチと、バイセンテニアルパークです。

それに、ガリワル・アボリジナルブッシュトタッカートラックも歩いてみてください!

ヤラベイビーチ

Phillip Bay

ボタニー湾の北側に位置するフィリップベイのビーチはヤラベイ (Yarra Bay) と呼ばれ、北のバンボラポイント (Bumborah Point) から、南のヤラポイント (Yarra Point) までの範囲を指します。

ラペルーズの Frechmans Bay や Congwong Beach と比べると静かであまり知名度はありませんが、白い砂浜と透き通る水が美しく、家族連れで海水浴に来るのにも適している海です。(ビーチエリアへの犬、アルコール、ガラス瓶の持ち込みは禁止)

詳しくは Randwick City Council のページをチェックしてください。

 

ですが、この知る人ぞ知るビーチをあまり人に知られたくないと思っている人も少なからずいるようです。

2023年に News.com に掲載された記事 Yarra Bay in Sydney goes viral for its sparkling white sand and crystal clear water によると、シドニーのビーチはオンラインで多くの注目を集めましたが、ヤラベイを秘密のビーチにしておきたい人が多数いて、投稿がバズっても場所を明かさないで欲しいと懇願する人までいたとか。

Eri
Eri
私も冒頭で書きましたが、多くの人に知ってもらいたいと思う反面、あまり知られたくないという複雑な気持ちになることがよくあるので、気持ちは分かります。

 

そんなビーチですが、国際流通ターミナルや空港なども近いので、背景にはコンテナを運ぶ船が通ったり、飛行機が頻繁に飛んでいたり、独特な雰囲気があるビーチです。

Phillip Bay

そして、ビーチ沿いにはバイセンテニアルパークが広がっています。

バイセンテニアルパーク

Phillip Bay

ビーチに沿って広がるバイセンテニアルパーク (Bicentennial Park) はかなり広く、ラペルーズからポートボタニーまで続く Coastal Walkway の通り道にもなっています。

Phillip Bay

ヤラベイビーチに降りれるようになっているところが何ヶ所かあり、駐車場もたくさんありますし、トイレやシャワーもここで。

Phillip Bay

ベンチとテーブルがあるピクニックエリアには、バーベキュー台も。

Phillip Bayベンチはたくさんあります

Phillip Bay雨水が再利用されているそうです

 

Phillip Bay

そして、駐車場もある Kooringal Avenue のバイセンテニアルパーク入り口にあるのは、アーサー・フィリップ上陸記念の碑 (Arrival of the First Fleet HMS Supply) です。

アーサー・フィリップ上陸記念碑

Phillip Bay

正直、あまりにも小さいので、最初はただの公園入り口の目印かと思いました (汗)

Phillip Bay

「ニューサウスウェルズ植民地設立のため、1788年1月18日にサプライ号を停泊させたキャプテン・アーサー・フィリップがここに上陸」と書かれています。

Phillip Bay

Bicentennial (200周年) というくらいなので、この記念碑も建国200周年に合わせて建てられたのかと思いきや、もっと早い1956年1月18日にお披露目されていたんですね。

 

さて、泳いだり歩いたりしたらお腹が空くかもしれませんが、フィリップベイにある飲食店は2軒だけになります。

フィリップベイの飲食店

Csalt On The Beach

Phillip Bay

ヤラベイビーチの中程にある Csalt On The Beach は、1928年に設立されたヤラベイ 16ft セーリングクラブ (Yarra Bay 16ft Sailing Club) にあるビストロ・レストランです。

Phillip Bay

会員だけではなくビジターもウエルカムだそうですが、ID 提示や最低限のドレスコードが求められます。

 

Csalt On The Beach
Yarra Road, Phillip Bay, NSW 2036
https://yarrabaysailingclub.com.au/restaurant/
ランチ: 月〜金 12pm–3pm  ディナー: 水 6pm-8pm / 木・金 6pm–9pm
土 12pm–9pm / 日 12pm–8pm

 

もうひとつは、リトルベイのバス停で降りると近いカフェになります。

Daily Dose Cafe and Restaurant

Phillip Bay

住宅街にあるカフェです。

Daily Dose Cafe and Restaurant
29a Canara Ave, Phillip Bay 2036 NSW
https://www.facebook.com/
朝食・ランチ: 水〜月 6am-1pm / ディナー: 木〜日 5pm-9pm / 火 定休日

 

あとはラペルーズ方面に行くか、マトラビルのボタニー墓園の近くにあるカフェに行くかですね。

 

さて、今回マトラビルを経由してポートボタニー側から海岸線を歩いたので、その辿った道も紹介します。

バンボラポイントからヤラポイントまで歩く

Phillip Bay

ポートボタニーを探索したあと、フィリップベイの探索をスタート!

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Port Botany

Phillip Bay

ここからでも水がきれいなのが分かりますが、ヤラベイビーチの北側の境界線は、この堤防みたいなところを越えたバンボラポイント (Bunbora Point) という所からということになっています。

Phillip Bay

右側に見えるのがコンテナターミナルがあるポートボタニー。遠くにはコンテナを積んだ船が見えて、なんとなく不思議な風景です。

Phillip Bay

南に行くなら茂みを抜けないといけないようで、右側はビーチに降りる道がるのかと思いきや、行き止まりでした。

Phillip Bay

「えー、こんな整備されてないような道を歩くのかー」と思いながら進んでいましたが、途中で下のビーチに降りる場所もあります。そこら辺がバンボラポイントのようですね。

Phillip Bay

ビーチに降りて歩いても良かったのですが、砂浜は歩きにくいので、このまま草むらを歩きます。

向こうに見える白い建物がセーリングクラブです。

Phillip Bay

「もしかしたら、ずっとこんなブッシュウォークが続くのかな??」と思っていたら、だんだんひらけて来ました。

Phillip Bay

ここまで来れば、楽勝です。ずっとこんな舗装された道が続きます。

Phillip Bay

右側にヤラベイビーチも見えて来ました。

…でも、不謹慎かと思うのであまり写してませんが、イースタンサバーブス・メモリアルパーク (ボタニー墓地) とも隣接しているので、左側はお墓が見えてます。かなり大規模な墓地です。

Phillip Bay

しばらく歩くと道が左右に分かれるので、これを右へ行きます。目指すはバイセンテニアルパーク!

Phillip Bay

ベンチがたまに設置してあるので、この辺りで一休みしても良いですね。

Phillip Bay

ビーチに降りる道もたまにあって、ブッシュとビーチを行き来出来るようになってます。

しばらく歩いて、たくさんの車が駐車されているところまで来たら、もう一息。

Phillip Bay

着きました!バイセンテニアルパークです。

Phillip Bay

詳しくは先ほども書いた通りで、トイレやシャワー、ピクニックエリア、ビーチに下りる道などがあります。

アーサー・フィリップ上陸記念碑やセーリングクラブのレストランなどは紹介したので省略するとして、それらを通り過ぎたところに、ガリワル・アボリジナルブッシュトラック (Guriwal Aboriginal Bush Tucker Track) があるので、そちらも忘れずに!

ガリワル・アボリジナルブッシュトラック

Phillip Bay

この道を入って行きます。

Phillip Bay

ビーチが近いはずなのに、またうっそうとした感じの茂み。

Phillip Bay

しばらく歩くと、Guriwal Aboriginal Bush Tucker Track の看板がありました!

ブッシュタッカーというのは、オーストラリア先住民が昔から食べてきた伝統的な食材のことです。

Phillip Bay

この約200kmに及ぶブッシュ タッカートラックも、ランドウィックのコースタルウォークの一部になります。

Phillip Bay

所々に木彫りの彫刻があり、Taking the bush tucker trail によると、8種類あるとか。

とってもかわいくて、ワクワクします。

Phillip Bay

彫刻のひとつの傍に小さな小道があり、目印のようになってました。

Phillip Bay

また草ボウボウなので大丈夫??と思ったのですが、かき分けて進むと、

Phillip Bay

ひらけた場所に到着‼︎

Phillip Bay

あっちに見えるのがラベルーズですね。

Phillip Bay

南側の岩場の手前がヤラポイントみたいで、とうとうヤラベイビーチの終わりまで来てしまいました。

Phillip Bay

打ち寄せる波の音と、ずっと見てても飽きない景観。ここでぼーっと過ごしてたら癒されそう。

Phillip Bay

Phillip Bay

 

さて、もう一回山道に戻って、もう少し進んでみましょう。

 

ちなみにヤラポイントには、ヤラベイハウス (Yarra Bay House) とも呼ばれるラペルーズ・ローカルアボリジナルランドカウンシル (La Perouse Local Aboriginal Land Council) があります。

ラペルーズ・ローカルアボリジナルランドカウンシル (ヤラベイハウス)

Phillip Bay

この建物、もともとは1903年に電気通信のためのケーブルステーションとして建てられ、1917年に廃止になるまで使用されていました。

その後、1980年代まで児童施設に使われ、1984年にローカルアボリジナルランドカウンシルの建物になりました。

(参考: https://dictionaryofsydney.org/entry/yarra_bay_house など)

フレンチマンビーチへ

Phillip Bay

ついにフランチマンズベイ・リザーブ (Frenchmans Bay Reserve) まで来ました。ここまで来ると、もうラベルーズです。

Phillip Bay

このフレンチマンズビーチも素敵ですが、フィリップベイではないので、こちらはまた次回にします。

Phillip Bayなんか工事中?

おわりに

小さくて知名度もそんなにないフィリップベイですが、土地の情報は満載で6千文字越え。詰め込み過ぎたかもしれませんね。

ですが調べて行くうちに、またここに来たくなりました。

知名度低いのに歴史的背景やアボリジナルコミュニティがあって、きれいなビーチと豊かな自然、コンテナターミナルに飛行機、それからお墓。

情報多くて不思議な場所ですが、観光地とされていないところの探索もやっぱり楽しいものですね。

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Acknowledgement to Country

This website would like to acknowledge Gadigal peoples of the Eora nations, Aboriginal and Torres Strait Islander people, the traditional custodians of this land and pay our respects to Elders both past and present.このウェブサイトは伝統的な土地の所有者であるエオラ、ガディガルの人々を含むアボリジナルおよびトレス海峡諸島の人々、そして過去と現在の長老に敬意を表します。