オーストラリアの白人による入植が始まったのは1877年からで、イギリスの植民地から独立した国になったのは1901年、そんなまだ歴史が浅い国であると同時に、様々な国から多くの移民がやってきたため、おいしい料理は外部から持たらされました。
だから、オーストラリア独自の食文化は発展せず、ゆえにオーストラリア料理はないのだと豪語する人もいるのですが、そんな意見には「何か大切な事を忘れてませんか〜?」と言いたいです。
それが “ブッシュタッカー (Bush tucker)” の存在です。
オーストラリア大陸にはおよそ5万年前から自然と共存しながら生活していた原住民の人たちがいますから、当然、伝統的に食べられてきた食材があり、その食材をブッシュタッカーと呼びます。
近年は栄養価が高くおいしい食材として、世界中の一流レストランのメニューにも取り入れられているほど注目を浴びるようになっているんですよ。
伝統的食材ブッシュタッカー
ブッシュタッカーはブッシュフードとも呼ばれる事も多く、オーストラリアの動物・魚・虫・果物・野菜など食材全般を指します。
伝統的な調理方法は色々ありますが、焚き火の上で焼いたり何時間もかけて蒸したりする事が多かったようで、ペーパーバーグ (Paperbark) というメルラーカ種 (いわゆるティーツリー) の樹皮は、食べ物を包むのに便利な木として知られています。
種子などを粉にしてパンを作る事もあり、これは後にスワッグマンと呼ばれる季節労働者たちの作るダンパと呼ばれるパンの原型になりました。
そんなブッシュフード、よく知られている代表的なものを挙げてみます。(伝統的にはコアラ・ウォンバット・ポッサムなども食べられていたそうなのですが、そういう一般流通はしていないものは割愛しますね。)
(主な参考記事: https://www.alldownunder.com)
オーストラリアの動物
カンガルー (Kangaroo)カンガルー肉はスーパーマーケットでも簡単に手に入る人気食材。ビーフのような赤身肉の味には少しクセがあり、脂肪が少なくたんぱく質やミネラルなどの含有量が高いので、健康志向の人たちにも好まれています。
エミュー (Emu)オーストラリア固有動物 飛べない巨大な鳥 エミューは、アボリジニの人たちの大切な食糧源であると同時に儀式や薬としても使われました。脂肪が少ない赤身で濃厚な味わい肉は、高温で素早く焼くのがポイント。
クロコダイル (Crocodile)獰猛で危険なクロコダイルの肉は、白身のさっぱりした鶏肉のような味です。食用の肉は養殖で、通常ワシントン条約で捕獲が制限されています。
ワラビー (Wallaby)カンガルーよりもひとまわり小さいワラビーは、カンガルー肉と同様脂肪が少なくヘルシーですが、味にクセがないので食べやすいかもしれません。
ゴアナ (Goanna)ゴアナは全長1.6mにもなるオオトカゲ。白身肉は鶏肉のようで、ウワサではヘビよりもおいしいらしいですが、レストランでは流通していません。鋭い爪を持ち噛まれるとかなり痛いようなので注意。
オーストラリアの魚介類
オーストラリアに来たらシーフードというくらい人気の魚介類。
バラマンディ (Barramundi)スズキの仲間で大きいものは全長2m に達するというバラマンディは、オーストラリアではよく食べられている魚。基本的に暖かい地域に生息しています。
モートンベイバグ (Morton Bay Bug)赤褐色の甲殻を持つバグは別名ベイロブスターと呼ばれ、その名の通りロブスターにそっくりな食感で人気。主にQLD や NT に生息していて、120〜380gほど。
バルメインバグ (Balmain Bug)味も見た目もモートンベイバグと似ていますが、比べると80〜200g と小ぶりで、オーストラリア全域で採れます。
マッドクラブ (Mud Crab)Muddie とも呼ばれ、マングローブの生い茂る泥地に生息する重さ約500g〜1kg ほどのカニ。高級食材として知られています。
ヤビー (Yabby)主に QLD の淡水に生息するエビですが、現在はほとんど養殖です。ヤビーという名前は原住民 Wemba族の言葉が由来しています。
オーストラリアの昆虫類
ウィチェッティの幼虫 (Witchetty Grub)ウィチェッティの白い幼虫は、つまりイモムシ。カルシウムや鉄分など栄養価が非常に高く、生でも良し焼いても良しで、甘くてナッツのような味がするらしいです。
オーストラリアの果物・野菜
ここから先は写真がないものもあります。気になる方は、ブッシュフードショップのウェブサイトに写真が載ってますので、下記のリンクから確認してみてください。
クワンダン (Quandong)乾燥した地域に生息するビタミンCが豊富なクワンダンの赤い実は先住民の重要な食糧で、これは入植者たちにも好んで食べられました。
ブッシュトマト (Bush Tomato)別名 Kutjera、 Kampurarpa、Akatjurra、Desert Raisins と様々な呼び名があるトマトは長期保存にも適していて、何千年もの間、砂漠地帯に住む人々にとって重要な食材でした。
イラワラプラム (Illawarra Plum)
別名 Daalgaal、Gidneywallum。濃い赤い実は石のような殻に覆われた変わった果物で、中は鮮やかな紫色。粘着性のある甘い実は、胃腸にとても良い効果を発揮します。
カカドゥプラム (Kakadu Plum)
別名 Gubinge、Billygoat Plum、Murunga。独特の風味を持つ緑色の果実は世界で一番ビタミンC含有量があると言われ、ジャムやジュース、化粧品など幅広く使用され、防腐剤効果もあります。
ワリガルグリーン (Warrigal Greens)
別名 Warrigal Spinach、New Zealand Spinach 、Botany Bay greens。ヨーロッパに広まった最初のオーストラリア原産野菜のひとつ。キャプテン・クック が壊血病予防の為に船員たちに食べさせたと言われ、植物学者 ジョセフ・バンクス によって国外に紹介されました。
オーストラリアのナッツ
マカダミアナッツ (Macadamia Nuts)今日マカダミアナッツはハワイのイメージがありますが、実はもともとオーストラリア原産。古来よりアボリジニの人々の食材や儀式に用いられていました。
ワトルシード (Wattle Seed)オーストラリアの国花にもなっている ワトル。頑丈な殻に覆われた種子は、今も昔もオーストラリアに住む人たちにとって貴重な食材です。
ブンヤナッツ (Bunya Nut)
大きな澱粉質のナッツは、NSW や QLD に生息する堅い外皮に覆われたブンヤパイン (Bunya pine) という木から収穫されます。
オーストラリアのスパイス
レモンマートル (Lemon Myrtle)
精油でも知られるレモンマートルは爽やかなレモンのような香りのするハーブで、チキンや魚の香り付けからシャーベットのようなスイーツまで幅広く活用されています。
フィンガーライム (Finger Lime)熱帯雨林の果物フィンガーライムは、サラダ・シーフード・パスタ・カレー・刺身・デザート・カクテルなどなど、使い方は色々です。
→ 近年、注目を浴びるブッシュフード『フィンガーライム』とは
プロダクト
メルボルンの会社 Original Juice Co. からブッシュタッカージュースも発売されています。味は2種類です。
・DAVIDSON PLUM & RIBERRY
・DESERT LIME, CINNAMON MYRTLE & RIVER MINT
入植者には人気がなかったブッシュタッカー
さて、今でこそ注目を浴びるブッシュタッカーの食材ですが、植民地時代の白人たちには不人気だったようです。
入植初期は深刻な食料不足の時期もあったので食されてはいたものの、ヨーロッパ育ちの入植者にとっては食べ慣れない食材でしかなかったのです。
19世紀の植物学者 J.D. Hooker はタスマニアの植物について書いた自身の著書で、ブッシュタッカーについて「食べられはするが、食べるに適していない」と述べていますし、同じく植物学者 Joseph Maiden も「この大陸には果物くらいしか食べられそうなものはない」とコメントしています。
そんなオーストラリア原産の食材が脚光を浴び始めたのは1970年代に入ってからでした。
植物学者によって書かれたブッシュフードに関する本が人気を博し、オーストラリア原産の食材は次々と商業化。80年代に入るとマカダミアナッツの小規模な商業用プランテーションが始まったり、南オーストラリア州では初めて食用にカンガルー肉が販売されたりしています。
テレビでは、アウトバックで生き残るサバイバルテレビシリーズやクッキングショーなどブッシュフードに関する人気番組が登場し、ブームに一躍買いました。
全て英語ですが、当時の人気大テレビシリーズ『Bush Tucker Man』のYouTube を貼っておきます。
こうしてブッシュタッカーは、健康的でグルメな食材として世間に認識されていきました。
おわりに
最近は日本でもカンガルーの肉が食べられるレストランがあるらしいですね。
現在は原住民の人たちの食生活も、生活様式もかなり変わっていますが、オーストラリア各地にアボリジナル文化に触れられる施設もあるので、その時にブッシュタッカーに触れる機会もあるかもしれません。
…日本でも一応注文出来ます💦